ビルゲル・カイピアイネン(1915年7月1日-1988年7月18日)は、フィンランド国内で賞賛され、世界的にも、名を知られる陶芸デザイナーの一人です。フィンランドの名窯・アラビア製陶所芸術部門(アートデパートメント)での長い経歴の間には、何千にもわたる一点物の作品を作ったり、また、食器デザインも手掛けており、例えば1970年にデザインしたアピラ(クローバー)やスンヌンタイ(日曜日)があります。
カイピアイネン氏の作品は、当時フィンランドのデザインの傾向とは異なる、ロマンチックで色鮮やかなデザインで知られています。彼が、作品の細部や飾りにまで多大な注意を注いだことは、作品に数百ものガラス玉をはめ込んだり、様々な装飾で空白を埋め尽くしたことにも伺うことができます。ヘルシンキ大学・美術史講師であるハッリ・カルハンによると、カイピアイネン氏はアートの分野を混ぜ、今でもまだ様々な疑問が沸き起こるアーティストとのことです。カイピアイネン氏の独特で秘めたようなファンタジーの表現世界は、すでに当時の観客を魅了しましたが、同時に、モダンなデザイン界では、彼の豊かな表現を毛ぎらう傾向があり、アート界でも、彼の際立った装飾性は腑に落ちないところがあったようです。今日では、陶芸家たちは彼の装飾から、デザイナーたちは色から、アーティストたちは「カイピアイネン的」植物のテーマからアイデアを吸収しています。
カイピアイネン氏の代表的なテーマは、例えば花(特にパンジー)や女性像、ちょうちょ、トンボ、果物、ベリーや鳥(特にダイシャクシギとヒバリ)です。また、自然の多様性に加え、美術様式や古代ギリシャ陶芸に影響を受けています。カイピアイネン氏は、本、クラッシック音楽、オペラ、バレー、そして上流社会の集まりを愛しましたが、特にマリメッコの創業者アルミ・ラティアと過ごす時間を楽しみました。カイピアイネン氏は、様々な形を操り、2次元と3次元の境界線を行きかう「陶芸画家」と言われることがあります。一点物の陶芸作品には、キュービズムとシュールレアリスムの特色も見られます。また、ビザンチン、初期ルネサンスや、カレリアの神秘論にも影響を受けています。彼の想像力を遮るものは何もなく、60周年記念のインタビューで、「想像することにお金はかからない。想像というものには制限もないし、それをどこで止めるかなど、だれにも口出しはできないのだ。」と話しています。
カイピアイネン氏のアシスタントを長年務めたテルホ・レイヨネン氏によると、カイピアイネン氏は、自分の作品を褒めることはなかったそうです。しかし、特定の作品に特に満足している感じはあったようです。そしてそれが、同じ様に色や動物や植物のテーマで制作を続ける源になっていました。すでにある作品から新しい作品ができると、カイピアイネン氏が話していましたこともありました。彼はまた、陶芸以外の新しい素材を使って製作することも好みました。ドローイングをたくさん描き、絵も描きましたが、1950年から今日に至るまでフィンランドで一番売れた有名な壁紙Kiurujen yöやKen on kiuruista kauneinもデザインしました。また、オペラとバレー衣装のデザインも手掛け、1967年には雑誌アンナの読者にアンナドールもデザインしました。
カイピアイネン氏はデザインの仕事に情熱的で、定年退職後もほとんど毎日のように仕事を続けていましたが、73歳のある日、いつもの通り一日仕事をし終えてから、自宅で永遠の眠りに着きました。彼の同僚であるオイヴァ・トイッカは「貴族的なビルゲル・カイピアイネンは陶磁器の王子だ。他に類を見ないし、誰とも比べられない。」と回想しています。
学歴
- 1933年 – 1937年 ヘルシンキ芸術デザイン大学(Taideteollinen oppilaitos)
アーティスト職歴
- 1937年 – 1954年 アラビア、フィンランド
- 1948年 – 1949年 リチャードジノリ、イタリア
- 1954年 – 1958年 ロールストランド、スウェーデン
- 1958年 – 1988年 アラビア、フィンランド
展覧会
- 1952年 バルチラ、ヘルシンキ
- 1955年 Bonniers、ニューヨーク
- 1956年 バルチラ、ヘルシンキ
- 1958年 バルチラ、ヘルシンキ
- 1964年 バルチラ、ヘルシンキ
- 1965年 Formes Finlandaises、パリ
- 1971年 バルチラ、ヘルシンキ
- 1973年 ノーディスカ・コンパニー、ストックホルム
- 1976年 ノーディスカ・コンパニー、ストックホルム
- 1977年 ストックマン、ヘルシンキ
- 1978年 サヴォンリンナ・オペラ・フェスティバル、サヴォンリンナ
- 1979年 バルチラ、ヘルシンキ
- 1980年 ノーディスカ・コンパニー、ストックホルム
- 1984年 バルチラ、ヘルシンキ
- 1985年 ロールストランド、スウェーデン
- 1989年 デザイン美術館、追悼展、ヘルシンキ
- 1990年 タンミサ―リ美術館、追悼展、タンミサ―リ
主な所蔵
- デザイン美術館、ヘルシンキ
- レースカ美術館(Röhsska Museet)、コペンハーゲン
- 国立美術館、ストックホルム
- マルメ美術館、マルメ
- デザイン美術館、コペンハーゲン
- Akatemian Museo、ジェノヴァ
- ブレラギャラリー、ミラノ
- 京都現代美術館、京都
賞、名誉称号
- 1938年 コルデリン財団の奨学金
- 1951年 Diplome d´Honneur、ミラノ
- 1959年 スウェーデン文化基金の奨学金
- 1960年 Grand Prix、ミラノ
- 1961年 Gold Plaquette Gualdo Tadino、イタリア
- 1963年 Pro Finlandia
- 1967年 Grand Prixモントリオール国際博覧会
- 1970年 フィンランド国家とヘルシンキ市の芸術賞
- 1972年 Illum芸術デザイン賞
- 1977年 教授の称号
- 1982年 エウシェン王子勲章
- ヘルシンキ・アラビアに、ビルゲル・カイピアイネンの名前の付いた通りと庭
ビルゲル・カイピアイネン通り/Birger Kaipiaisen katu
ビルゲル・カイピアイネンの庭/Birger Kaipiaisen piha
フィンランドテレビ局Yleによるカイピアイネン氏のドキュメント(フィンランド語、フィンランド国内のみ視聴可能): Keramiikan kuningas Birger Kaipiainen(陶芸の王者、ビルゲル・カイピアイネン)